100個の点と3個の点 —— リハビリの現場と太極拳の稽古
教室に通われているある生徒さんから、興味深い文章をいただきました。
彼女のご友人のリハビリテーションの現場での話なのですが、これは我々の太極拳の稽古にも通じる、非常に示唆に富んだ内容でした。
「指導の質」と「学ぶ側の姿勢」について考えさせられるエピソードです。ご本人の許可を得て、ここでご紹介します。
先日、学生時代の友人と久しぶりに食事に出かけました。
彼女は今、理学療法士として医療センターで働いており、リハビリを担当しています。
彼女はこれまで、医療設備もスタッフも充実した都心の最先端の病院で勤務していたのですが、この春、事情があって実家近くの病院に職場を変えたのです。
久しぶりの再会で懐かしい話に花が咲き、お酒も入って楽しく盛り上がりました。
しかし、話題が新しい職場での仕事のことになると、彼女の表情が少し曇りました。
「100個の点」と「3個の点」
新しい職場のシステムに、彼女はどうしても納得がいかない様子でした。
彼女は悲しそうに、こう言いました。
「リハビリをするために必要な道があるとしたら、私は患者さんに『100個の点』をたどるように丁寧に教えていきたい。
それなのに、今の病院はそれを『3個の点』だけで示せと言うの。」
以前勤務していた病院ではスタッフも多く、時間をかけて100個の点をたどるような指導ができていたそうです。
しかし現在の病院は、彼女が初めての専門スタッフで、専用の部屋すらまだない状態。
それなのに一人で200名もの患者さんを担当しなければならず、病院側からは「とにかく早く回転させるように」と指示されているのだとか。
100個の点をたどるような指導では回転が追いつかないから、3個の点で指導しろ、というわけです。
見落とされる97個のプロセス
確かに、3個の点で示しても、勘の良い患者さんならできるそうです。
残り97個の「本来は通過しなくてはならない点」も、なんとなくコツを掴んで通過できてしまう。
でも、ほとんどの患者さんはそうはいきません。
たった3個の点でしか示されず、その3個でリハビリの全てを理解することを求められる。
残りの97個分は、患者さん自身が「どうしてうまくできないんだろう…」と苦しまなくてはならないのです。
さらに困ったことに、3個の点で満足してしまう人もいるそうです。
彼女は嘆いていました。
「私は、100個の点が示せるところで働きたい。そう思っている。
でも、人間は現状に慣れていってしまう生き物だから、私も今は納得できないと思っていても、そのうち毎日の忙しさにかまけて、3個の点を示す指導に慣れきってしまうかもしれない。
それがとても怖い」
太極拳の稽古に重ねて
彼女の話を聞きながら、私は心の中で太極拳のことを考えていました。
先生のきめ細かく、時に厳しい指導と同じだ、と感じたのです。
先生は常に「100個の点」を示してくれている。
でも、私はそれを受け止められているだろうか。
97個の点を受け止められず、3個の点を通過するようにしか、なぞっていないかもしれない。
彼女の真摯な言葉と、先生の真摯な指導が重なり、先生が日々伝えようとされていることの核心に、少し触れることができたような気がしました。
3個の点と100個の点。
示している経路(到達点)は同じかもしれません。でも……。
自分で、提示された100個の点を、勝手に3個の点に省略してしまわないように。
そのプロセスを大切に、稽古に向き合いたいと思います。
東洋身体研究室 代表 裏山 元紹