馬虹師父と僕~拝師 篇~
前回、前々回と馬虹師父との出会いから、唐突な張老師の「拝師したいの?」宣言までを見てきました。
思いがけず3部構成になってしまった馬虹師父との思い出話、いよいよ最終回です。
長安公園での朝練
さて、一晩考えに考えた、というほどでもなく、「そんなことできるんかい!?」くらいにしか思ってないまま、日が変わり、翌朝。
道路を挟んでホテルの向かいに広がる「長安公園」の中で、馬虹師父のグループは練習しています。
朝に夕にいろんな武術のグループがいたり、社交ダンスや、エアロビ、いちゃいちゃに精を出すバカップルなどで溢れるこの公園。
時期も時期(2月末)のため、まだまだ早朝6時は暗いです。
具体的な場所もよくわからんまますたすた歩いていく張老師……まあ、ついて行くしかないわけですわ。
京劇を歌う老人達の横をすり抜け、かつて一世を風靡(?)した香功を練習する人たちを横目に歩くと、やがて藤棚のような屋根のある通路が現れ、その向こうの広場に、馬虹師父の一団はおられます。
馬虹師父は、快く僕らを迎え入れてくれました。
本とビデオで見た人が、今、目の前で、その套路を打っている。
もうそれだけで、来た甲斐があったというものです。
一路を終えると、皆は思い思いに復習を始めます。
後で知ったことですが、馬虹師父は(少なくとも)現在は直接ご指導をされることがなく、聞かれれば答えるけれど、それも相手(ほとんどが高齢な方)の体力を考慮してか、さほど厳しいことは言われません。
むしろ、朝の交流といった感じが強いです。
緊張の演武
やがて、辺りが明るくなり、一通り朝の練習が終わるころ、見学していた僕のそばに師父が来られ、
とさらりと言われてしまいました。
かつて、張老師の元で練習していたときの兄弟子(僕は、張老師には拝師していないので、正確には違いますが)に、
「見せてといわれて見せられないような練習をしているのは、先生に対して失礼だ」
といわれたこともあり、二つ返事で(当たり前っちゃあ、当たり前ですが………)承諾しました。
緊張はどピーク! ファンソンなんてできません。
やがて、僕を見て下さる馬虹師父の周りに練習を終えた生徒さん達が。
そりゃあもう20人くらいが見ています。
おまけになにやらぼそぼそ言ってます。
見るな! そして何も言うな!
心の中では叫んでいました。
がちがちの太極拳が終わると、馬虹師父は張老師に遠慮しつついくつかの点を指摘して下さいました。
-
ファンソンできてない
……無理です。 -
視線が安定してない
……みんな見すぎです。
まあ、全て自分でわかっていることでしたが。
衝撃の金剛搗碓
それから、少し経験してみようということで、金剛搗碓を教えて下さいました。
それまでのものと違い、ものすごく細かく、要求の高いものでした。
陳式しかしてない馬虹師父と、呉式などを取り入れた張老師。
こんなにも差があるものか、と思いました。
それはどちらがよい悪いではないです。ただ単に違うのです。
じつは、馬虹師父は金剛搗碓が終わると、続けて懶扎衣も教えて下さろうとしました。
謹んで辞退しました。
覚えられるわけがありません!!
武術を始めて、自慢ではないですが、たいていの動作は一度見ればできたし、そこそこの動きはトレースしてきました。
もちろん、中身は功夫がいりますから別ですが。
しかし、この金剛搗碓は、その輝かしい(?)歴史に見事に黒星を付けたのです。
恐るべし陳(氏)照奎太極拳!!
「次をやるのは無理です。まずはこれをしっかり体に覚え込ませます。」
そういうと、馬虹師父は満足げに頷いてくれました。
急転直下の拝師
苦戦する僕を置いて、馬虹師父は張老師と話し込み始めました。
そんなこと言ってません、僕は!!
まだ考えすらまとまってない。
目の前の金剛搗碓にすら苦戦している人間が、そんなこと言ってるはずがないでしょう。
はい、僕からもお願いいたします・・・・て、なんで、こんなことになってるんだ・・・
もうその言葉でかなり感激です。
もう、勘弁して下さい・・・
けっきょく張老師の強い推薦(強要とも言う)があり、なんだか当事者を差し置いて、話がまとまりつつある予感。
訳がわからぬ僕を置いてけぼりに朝練は終わり、拝師帳を作るために街に。
そして拝師式へ
午後、馬虹師父宅に、準備した拝師帳を持って張老師とおじゃましました。
師父と師娘が並んで座り、その横に張老師。
かなり急な話のため、他の弟子を呼ぶことなどできるはずもなく、それ以外は伝統的なやり方に則り、
よくわかってない当事者を置き去りにしたまま、
式は進行していきます。
まず、拝師帳に書かれた文章を師父の前で読み上げます。
だいたいは、「がんばって練習します」「自覚を持って正しく伝えていきます」といったことが書かれてます。
読み上げると、しゃがんで三叩頭。
いやいや、頭が上がりませんわ・・・
その後、師父と師娘にお茶を差し上げ、拝師帳を師父と張老師、僕の3人でそれぞれ保管します。
夕方は4人で会食。
今は平気ですが、最初は「師父」と呼びかけるのが何ともむずがゆく、ちょっと照れていました(僕が)。
翌朝、帰京の前に再び朝練に参加し、張老師の許可を得た上で、
「今後は、この太極拳のみを練っていく」
ことを自らの口できちんとお伝えしました。
「それでいい」
と喜んで頂けると、かえって重い責任がずっしりとのしかかったような気がしました。
夏に再訪することを約束し、石家庄を後にしました。
ちなみに、帰りの切符は師父が他の弟子に頼んで手配してくれました。
師父、そして師兄、非常感謝!!
ああ、長かった……(完)