イメージ太極拳
太極拳の流れるような、なめらかな動き。その美しさに惹かれて門を叩く方は少なくありません。
しかし、熟練者の表演を見た後、多くの方が「自分の動きはあんなになめらかではない」と、焦りや不安を感じてしまうようです。
先日、ある生徒さんからこのような質問を受けました。
「どうすれば、先生のようななめらかな動きになれるのでしょうか?」
一見、上達への近道を聞く素朴な問いですが、これに対する私の答えは、(もちろん私もまだまだ十分にできているとは言い難いですが)少し厳しいものに聞こえるかもしれません。
私は、こうお答えしました。
「今は、無理です。すぐになれるはずがありません。」
美しさの正体は「螺旋」にある
なぜ「無理」なのか。それは、あのなめらかな動きが、単なる手足の表面的な運びから生まれるものではないからです。
太極拳の美しさは、すべて身体の内側で描かれる「螺旋(らせん)」の連続によって形作られています。
身体の奥底で生まれる小さな螺旋の流れが、大きなうねりを生み出し、やがて波のような力の連鎖となって外側に現れます。
大きな動きも、微細な動きも、すべては立体的な螺旋の一部。それは生命の根源であるDNAの二重螺旋のようでもあり、あるいは広大な宇宙の構造そのもののようでもあります。
まさに「生」の躍動そのものが、なめらかさとして結晶しているのです。
最初は「正確なロボット」でいい
私は指導の際、動きに「1、2、3、4」と番号を振って示します。
これはリズムを刻んでいるのではありません。それぞれの動きが必ず通過しなければならない「チェックポイント」を示しているのです。
最初は、ロボットのようにぎこちなくても構いません。まずはそのポイントをできるだけ正確になぞり、覚えていくこと。なめらかに見える手足の動きだけを真似しようとしても、内側の螺旋が伴っていなければ、それは単なる「踊り」になってしまいます。
「イメージだけで動く人は、なかなかその先へ抜け出せない。」
これは私が時折、自戒を込めて口にする言葉です。表面的な「なめらかさ」のイメージに頼りすぎると、正しい身体の使い方の習得を妨げてしまうことがあるのです。
気づきの積み重ねの先に
なめらかで美しい動きは、私たち全員の究極の目標です。
しかし、そこに辿り着くまでには、必ず踏まなければならないステップがあります。
- 「はっ、手だけを動かしていたから動きが窮屈だったんだ」
- 「あっ、今、腰から動いていなかったからうまくいかなかったんだ」
こうした小さな「気づき」の積み重ねこそが、人に劇的な変化をもたらします。
身体の内側から作り出す螺旋が少しずつ繋がり始めたとき、意識せずとも動きは自然となめらかになっていきます。
最初から美しくあろうとする必要はありません。
一歩一歩、泥臭く「正しい点」をなぞり、身体の理(ことわり)を学んでいきましょう。
コツコツと続けていけば、いつかあなたの内側から、あなただけの美しい螺旋が溢れ出す日が必ず来ます。
東洋身体研究室 代表 裏山 元紹